※ この文章は以前旧ホームページにて連記していたものを一つにまとめ一部修正したものです。
【シラットのスタンス 前書】
シラットを色々な所で学ぶとその所々で違う事を教えられ混乱することがあるという話を聞きます。きっと私にもその責任の一端があるのでしょう(笑)。
そのような時先生は「ウチが正しいのでウチの言う通りにしなさい」と言うのが楽なのですが(笑)、私は率直に「他ではこう習ったのですが、それではダメか」と聞いてほしいと思っています。きっと私は「あなたがやりやすいならそれでも大丈夫ですよ。ただ、こういうメリットがある反面こういうデメリットがありますよ」と言うはずです。
そして色々な先生からコンセプトを聞いて、最終的に自分が納得できる方法を採用すればいいと思っています。
これだけは断言できますが、全ての人に適合する絶対なる技術などはこの世に存在しません。全ての技術にはメリットとデメリットが存在します。それをよく理解したうえで練習する必要があります。
逆に先生は「こうしなければならない」と教えるのであればその理由をきちんと説明し、生徒を納得させる責任があると思っています。
他で武術を習うことを嫌う先生も多いようですが、私は全然かまいません。
そして、他の武術とタクティカル・シラットを融合していただいていいと思っています。
ただ他の生徒さんはシラットを習いに来ているわけですから相手が望んでいないのに他の武術の技を掛けたりはしないでくださいね。
【スタンスについて1 左足前?右足前?】
第一回は武術において最も基本となるスタンス(立ち方)についてです。
タクティカル・シラットではスタンスを7つに分けて学んで頂きます。
ただ最も基本となるナチュラル・スタンスは、あなたの立ちやすいように立って頂いています。かといってどう立ったらいいのかわからない方のために一応ガイドはあります。
「利き手側の足を後ろにして動きやすいように楽に立ってください」と教えています。
右利きの人が多いので左足前で立つ人が多いですが、もし右利きであっても今まで他で習ってきた武術や格闘技の関係などで右足前が立ちやすいようでしたら右足前で立って頂いて構いません。もちろん左手が利き手の方は右足前で立って頂いて構いません。
但し、相手が技を掛けるときは相手が上級者以上でない限り、左足前で立つようにして下さい。戦いの際には左足前の人が多いので、私が教える際原則として左足前の相手に技を掛けるよう解説しているからです。技を掛ける際に相手が右足前だと初級者は混乱してしまいますので。
相手が上級者以上のときは「左利きなんですが、右足前で受けていいですか?」と聞いてから練習するようにして下さい。上級者以上の方は逆足の人に技を掛けることも練習した方がいいですので。もちろん自分が技を掛けるときはやりやすい右足前で掛けましょう。
なぜこうしているかと言うと、生徒さんの今までの武術・格闘技の技術と矛盾させないためです。
例えばサウスポースタイルのキックボクシング経験者がシラットを習いに来たとしましょうか。
にもかかわらず、「利き手にかかわらず左足前で立ってください」と教えられ、ずっと左足前でシラットの練習をしたとしましょう。
で、街で暴漢に襲われた時、その方はどう戦うと思いますか?(逃げて下さい、と言うのは置いておいて戦わなければならない状態に追い込まれたと考えて下さい)
もしキックの経験が長く身に付いていたとしたら、サウスポースタイル(右足前)で構えます。シラットの拘束術で拘束すべきタイミングで、左足前でしか練習していないシラットの拘束術がスムーズに出せるでしょうか。
きっとスムーズに技を出せずに一生懸命練習してきたシラットの練習は無駄になってしまうでしょう。
逆にシラットの経験が長くなった時、オーソドックス(左足前)で戦うことになりますが、左足前で得意の左ミドルがスムーズに蹴れるでしょうか。一生懸命に練習してきたキックの練習が無駄になりかねないのです。
私は今まであなたが培ってきた武術や格闘技をダメにするような武術を教えたくありません。右足前の方が構えやすい人は、右足前でシラットの技を掛けられるように練習した方が習う人に圧倒的に有益であると考えています。
キック経験者がシラットを習ったのなら蹴るべき時にキックの技術で蹴り、拘束すべき時にシラットの拘束術で拘束できるようになるべきです。
もちろん何もやったことがないという方には一からタクティカルメソッドを教えます。ご安心ください。
ではなぜ左足前を強制する流派があるのでしょうか?
これはズバリ教える方が楽なんですよ(笑)。生徒さんの為ではなく、教える側の都合であると私は考えています。
技を掛ける方と掛けられる方、左足前と右足前の人がいるときちんと全てのパターンを把握していないと教えられないことになります。
ですが、利き手にかかわらず左足前を強制することにより、画一的に教えられるようになります。例えば軍隊のようにたくさんの兵隊が短期間で技を覚える必要があり、たくさんの教官が必要で教官を早期養成するにはこの方法がいいのだと思います。
でも生徒さんの特性を考えずに画一的に教えられるのであれば教室で学ぶ必要はなく教則DVDを見て友達と練習すればよくないですか?(笑)
もちろん左足前でないと掛けにくい技もありますが、当然右足前の方が掛けやすい技もあります。両方学ぶべきですが右足前の人は後者をよりよく練習すべきです。技には相手との身長差や体格差により掛けやすいもの掛けにくいものもありますが、先生になるのでなければ自分に合った技を中心に練習すれば十分です。
生徒さんはせっかく時間とお金を投資して教室なりセミナーに行くわけですから、先生なり先輩なりに色々質問して自分に合ったシラットを模索しましょう。ただ一方的に先生の言っていることだけ聞いて帰るならDVDで十分ですよね。
ちなみにタクティカル・シラットの教則DVDは絶賛発売中ですよ(笑)
【スタンス2 正対?側対?】
また「正対(左右の足を横に広げて体の正面を相手に向けた状態)に近い形で構え、金的を守るため両膝を内側に曲げてください」と教えるところもあります。
確かにこの立ち方ですと、リーチの短い肘は相手に届きやすいですし両肩は連関しやすいので正面から肘連打するには向いている立ち方といえるでしょう。正面からでは通常後側にある利き手での肘が相手に届きにくいわけですから、これが相手に届きやすくなるというのは確かにメリットです。
ですが正対に近いスタンスですと正面からの攻撃を受けやすく、突きや前蹴りなど直線的な攻撃をかわしづらいというデメリットもあります。
そしてこの立ち方からだと正面からの攻撃を正面でぶつかっていき肘を打つコンセプトになります。ですが、体重の軽い人、女性の方、正面からぶつかっていって打ち勝つ自信がありますか?
正面からの攻撃に対しては相手の側面に回り込むものが多くの武術の基本になります。タクティカル・シラットでもそうです。
そして側面に回り込めれば後側にある手(左足前で右利きなら右手)が相手の近くに来ているので十分肘の連打ができます(肘の連打が当たるかどうかは別として)。そして正面から打つより当てやすいですし、相手の左手での攻撃も受けにくいです。正対しなけば膝を内側に絞り込まなくともそれ程簡単に金的も蹴られませんので足も動かしやすくフットワークも使いやすくなります。
肘の連打をしたい→そのためには正対しないと打ちにくい→しかしそれでは金的が蹴られやすい→膝を内側に曲げないと!
という流れです。これを負のスパイラルと言ったら言い過ぎですが、肘連打を獲得するために打撃は当てられやすく、フットワークは取りづらく、蹴れないし蹴りを足で受けられないというのでは多くの人にはデメリットの方が多いように感じます。
ですので、一般的には正対というより側対に近い形、つまり左右よりも前後に広めにスタンスを取る方が無難です。
【スタンス3 前体重?後ろ体重?】
ボクシングのようにパンチしか打たず、また蹴られることもないのであれば原則前体重でよいでしょう。しかし蹴りが得意な人にまで前体重を強制する意味があるでしょうか?
前体重ですと自分の蹴り技はもう封印されたも同じです。キックや空手などをやったことのある方ならわかると思います。その立ち方からは蹴りは出せませんし相手の蹴りを足で受けることもできないのです。
もちろん蹴りはやらない、ローキックは足で受けずとも対応できるという人は前体重で構いません。その方がパンチや肘は強力になります。ボクシング経験者など手技が得意な人は前体重の方がよいでしょう。
一般的には前後バランスよく立つのがお勧めですし、蹴りの好きな人は若干後ろ体重気味、パンチや肘が好きな人は前体重気味。両方を使い分けたい人は前後に体重を移動しながら戦って頂くことになります。
【スタンス まとめ】
なんか批判しているようになってしまいましたが「正対・前体重」の立ち方が合っている人ももちろんいます。
○肘連打が得意(好き)
○蹴りが苦手(蹴れなくても構わない)
○相手に正面からぶつかっていって負けない丈夫な体がある。
○腹部に対して多少攻撃を食らっても耐えられる丈夫な体がある。
○蹴りを足以外で受けても耐えられる丈夫な体がある。
○体が重くフットワークが苦手
(※特定の人をイメージしているわけではありませんよ!)
という方なら蹴りやフットワークがしにくくても、正面からぶつかっていって勝てるのでこのスタイルが合っているかも知れません。自分以上の体格の人と戦うときにはスタイルを変えた方がいいと思いますが。
まとめますと、
右足前?左足前?…原則利き手側の足が後だが立ちやすい方でよい。
正対?側対?…体が丈夫で攻撃主体の人は正対、防御主体…側対。側対気味が無難。
前体重?後ろ体重?…手技主体の人は前体重、蹴り主体の人は後ろ体重。お勧めはバランスよく
以上のようにスタンスはあなたのスタイルや得意技で決めるべきであり、誰かに強制されるものではないはずです。もちろんあなたの技術や特性を十分に理解したコーチが指導するなら話は別です。
タクティカル・シラットにはたくさんの先生から教わった多彩な技がありますが、全てをまんべんなく身に付ける必要はありません。ご自身の好きなスタイル、得意なスタイルを構築していってください。
【最後に】
シラットの流派によっては全て「こうしなければならない」と教えているところもあります。もちろんその流派の正統後継者になるのが目的であればそうして下さい。
ですが、そうでなければなぜそうすべきなのか説明がなく、あなたも理解しないまま妄信したのでは無益どころか有害ですらありえます。
ぜひ先生からコンセプトをよく聞き、納得したうえで練習するようにして頂くことを願って止みません。
最後に、あなたが憧れたシラットがあるはずです。そのシラット使いはそのようなスタンスをしていましたか?
タクティカル・シラット 岩田
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